大阿蘇

2016年09月23日 18:14

大阿蘇 三好達治の世界に魅せられて

 4月14日から最大でマグ二チュ-ド7.3の地震が熊本を襲った。それに呼応するように阿蘇山が小噴火した。5か月たった今も自身は続き、その脅威に怯えて暮らしている人々へ地震の終息を祈るばかりである。

 24年前に阿蘇山を訪れた時は、晴れて穏やかな空に、小さな噴煙が棚引いているだけだった。噴火口の周囲のカルデラの中に形成されている草千里の中では、馬や牛がが草を食んでいるのが見えた。

大阿蘇 三好達治 昭和11~12年に阿蘇を訪れて

雨の中に馬がたっている 一頭二頭仔馬をまじえた馬の群れが 雨の中にたっている 雨は蕭々と降っている 馬は草をたべている 尻尾も背中も鬣もぐっしょり濡れそぼって 彼らは草をたべている 草をたべている あるものはまた草もたべずに きょとんとしてうなじを垂れてたっている 雨は降っている 蕭々と降っている 山は煙をあげている 中嶽の頂きから鵜すら黄色い 重っ苦しい噴煙が濛々とあがっている 空いちめんの雨雲と やがてそれはけじめもなくつづいている 馬は草をたべている 草千里浜のとある丘の 雨に洗われた青草を彼らはいっしんにたべている たべている 彼らはそこにみんな静かにたっている ぐっしょりと濡れて いつまでもひとつところに 彼らは静かに集まっている もしも百年が この一瞬の間にたったとしても なんの不思議もないだろう 雨が降っている 雨が降っている 雨は蕭々と降っている

    *蕭々(しょうしょう)もの寂しい様 *鬣(たてがみ) *濛々(もうもう)

これほど反復法を駆使し、印象を焼き付ける詩を私は他に知らない。「雨が降っている 馬は草をたべている 雨は蕭々と降っている」 草を食む馬に、雨の中ひたすら生きる生命力の不変を表現している。この情景が、大地震により変わらないことを祈るばかりである。